半七捕物帳
はんしちとりものちょう
16 津の国屋
16 つのくにや分量:約87分
書き出し:一秋の宵であった。どこかで題目太鼓の音《ね》がきこえる。この場合、月並の鳴物だとは思いながらも、じっと耳をすまして聴いていると、やはり一種のさびしさを誘い出された。「七偏人が百物語をしたのは、こんな晩でしょうね」と、わたしは云い出した。「そうでしょうよ」と、半七老人は笑っていた。「あれは勿論つくり話ですけれど、百物語なんていうものは、昔はほんとうにやったもんですよ。なにしろ江戸時代には馬鹿に怪談が...