半七捕物帳
はんしちとりものちょう
67 薄雲の碁盤
67 うすぐものごばん分量:約50分
書き出し:一ある日、例のごとく半七老人を赤坂の家にたずねると、老人はあたかも近所の碁会所から帰って来た所であった。「あなたは碁がお好きですか」と、わたしは訊いた。「いいえ、別に好きという程でもなく、いわゆる髪結床《かみゆいどこ》将棋のお仲間ですがね」と、半七老人は笑った。「御承知の通りの閑人《ひまじん》で、からだの始末に困っている。といって、毎日あても無しにぶらぶら出歩いてもいられないので、まあ、暇潰しに出...