半七捕物帳
はんしちとりものちょう
14 山祝いの夜
14 やまいわいのよ分量:約28分
書き出し:一「その頃の箱根はまるで違いますよ」半七老人は天保版の道中懐宝図鑑という小形の本をあけて見せた。「御覧なさい。湯本でも宮の下でもみんな茅葺《かやぶき》屋根に描いてあるでしょう。それを思うと、むかしと今とはすっかり変ったもんですよ。その頃は箱根へ湯治《とうじ》に行くなんていうのは一生に一度ぐらいの仕事で、そりゃあ大変でした。いくら金のある人でも、道中がなかなか億劫《おっくう》ですからね。まあ、普通は...