半七捕物帳
はんしちとりものちょう
57 幽霊の観世物
57 ゆうれいのみせもの分量:約48分
書き出し:一七月七日、梅雨《つゆ》あがりの暑い宵であったと記憶している。そのころ私は銀座の新聞社に勤めていたので、社から帰る途中、銀座の地蔵の縁日をひやかして歩いた。電車のまだ開通しない時代であるから、尾張町の横町から三十間堀の河岸《かし》へかけて、いろいろの露店がならんでいた。河岸の方には観世物《みせもの》小屋と植木屋が多かった。観世物は剣舞、大蛇《だいじゃ》、ろくろ首のたぐいである。私はおびただしい人出...