半七捕物帳
はんしちとりものちょう
34 雷獣と蛇
34 らいじゅうとへび分量:約37分
書き出し:一八月はじめの朝、わたしが赤坂へたずねてゆくと、半七老人は縁側に薄縁《うすべり》をしいて、新聞を読んでいた。狭い庭にはゆうべの雨のあとが乾かないで、白と薄むらさきと柿色とをまぜ栽《う》えにした朝顔ふた鉢と、まだ葉の伸びない雁来紅《はげいとう》の一と鉢とが、つい鼻さきに生き生きと美しく湿《ぬ》れていた。「ゆうべは強い雷でしたね。あなたは雷がお嫌いだというからお察し申していましたよ。小さくなっていまし...