出がけに 帯の結び目を叩いておけば 魔除けになるということを 知ってはいたけど 叩き忘れたので こんな目にあったのかは わからない。 少年が 道に迷い 幻想的な体験をする という話である。 難解な字が出てくるので 手こずる。 美しい文章であると やっとの思いで 感じた。
「躑躅」 あの可愛らしい花が、漢字にするだけでこんなにも毒々しく感じられるとは。 「もう可いよ。もう可いよ。」 「こちらへおいで。こちら。」 古文調の地の文の中に突如として入ってくる現代語の台詞が、心臓を鷲掴みにしてくる。昔話のような雰囲気でありながら、逢魔が時の不気味さが今のものとしてひしひしと迫ってきた。
男の子が家人に内緒で山を散策するところから物語は始まる。躑躅が咲き乱れる山、斑猫と思われるキラキラとした虫、神社で遊ぶ子供たち、その一つ一つはありふれた風景であるはずなのに迷い混めば帰れない異界となる。 男の子は顔を毒虫にやられ、家人に認識してもらえないことに苛立ち、出奔する。その先で出会った不思議な女に傷を治してもらい家に帰るが、気狂い扱いされ、荒み、なにも信じられなくなっていく。そんな日々が続いたある日、彼は姉と共にある憑き物おとしをしてくれる場所へとつれていかれる。 山、神社、水辺は境界であり、別の世界のものたちと会いやすい場所である。普通に読んでしまえば、男の子が虫に刺され、道に迷ってひどく動転し、正常な判断力を失ったまま不思議な女に保護されて家に帰されるだけの話だ。しかし、そうと感じさせないのがこの話の肝であると思う。男の子の不安な気持ち、その事による風景の見え方の変化がありありと浮かんできて、読者もまたその男の子のように不安になったり怖くなったりする。 最後の女が何者かは語られていないが水神なのか、あやかしなのか。善いものであっても、異界にふれれば正気ではいられないということか。 なんとも気味が悪く、不思議な物語だった。
異類婚姻譚と母性へのフェチズム。 好きな人は是非一読してほしい。