半七捕物帳
はんしちとりものちょう
35 半七先生
35 はんしちせんせい分量:約44分
書き出し:一わたしがいつでも通される横六畳の座敷には、そこに少しく不釣合いだと思われるような大きい立派な額《がく》がかけられて、額には草書《そうしょ》で『報恩額』と筆太《ふでぶと》にしるしてあった。嘉永|庚戌《かのえいぬ》、七月、山村菱秋書という落款《らくかん》で、半七先生に贈ると書いてあるのも何だかおかしいようにも思われた。この額のいわれを一度きいて見ようと思いながら、いつもほかの話にまぎれて忘れていたが...