「白菊」の感想
白菊
しらぎく

夢野久作

分量:約35
書き出し:脱獄囚の虎蔵《とらぞう》は、深夜の街道の中央《まんなか》に立ち悚《すく》んだ。黒血だらけの引っ掻き傷と、泥と、ホコリに塗《ま》みれた素跣足《すはだし》の上に、背縫《せぬい》の開いた囚人服を引っかけて、太い、新しい荒縄をグルグルと胸の上まで巻き立てている彼の姿を見たら、大抵の者が震え上がったであろう。毬栗頭《いがぐりあたま》を包んだ破れ手拭《てぬぐい》の上には、冴《さ》え返った晩秋の星座が、ゆるやか...
更新日: 2021/03/03
ひまわりさんの感想

夢野久作独特の猟奇感がよく表れている作品だと思った。少女や人形、花の香りなどある種のおとぎ話の世界に迷い込んだ猟奇的な脱獄囚という対比構造もまさに夢野久作だと感じる。視点もおもしろく、最後で母娘にバトンタッチすることで脱獄囚はおそらく死んだと思わせている。(気がする) 江戸川乱歩も絶賛したとのことだが個人的にはそこまで刺さらなかった。ただ、情景描写が細かいので様子がありありと浮かんでくる。