藻喜 ある 展覧会場の 片隅で 沼を 描いた 絵画を 見いだした。濁った水と 湿った土と 繁茂する草木が 配されていて 緑色は 配されておらず 濁った黄色が ほとんどであった。それでも 見入っていると 心を掴む 何かが 感じられた。作者は すでに この世の人ではなく 生前においても 夢に 生きている ようなところが あったという。どのような こだわりが 彼の 創作意欲を 掻き立てたのか 思いを 巡らしてみると 示唆に富んだ 計り知れない 後世の 人々にたいする 何かが 感じられた。
自分の行先を無名の画家に重ね合わせたのだろうな。
無名の画家が素晴らしく表現し得た沼地の情景、それが精神を削りながら表現したものであるという事実に直面して、芥川は自らの芸術を作り出す表現者としての過酷な宿命とその宿命に殉じていく者の迫力に圧倒されたのであろう。
画家と死、というと思い出すのが、宮本輝の「星々の悲しみ」だ。じゃこうという茶店から拝借した絵で、作者は若くして死んでいた。「沼地」の作者も死んでいる。遺作として絵を鑑賞すると自然、感慨深くなるものだ!
ある、一枚の絵。 黄色ばかりで描かれた絵。 巧く描けないばかりに発狂した男が遺した一枚。 業、そんな言葉が思い浮かぶ短編だった。