視点を変えた時の、モノの美しさ。 芥川はつくづく芸術の人だなあと思う。 ふとモノの真意や美しさに気がつくという体験は、誰しもある。
短い文章の中で すぐ側にあるものでも、視点を変えると新しい発見があるということを伝えてくれる作品。また、女体の美しさや艶めかしさが上品に表現されていると思う。
虱に人の心があればこそ女体が驚嘆の対象となる。この話はものの観察の参考になる。想像力も鍛えられる。
「部分は、中に火気を蔵しているかと思うほど、うす赤い柘榴の実の形を造っている」 「芸術の士にとって、虱の如く見る可きものは、独り女体の美しさばかりではない。」 乳頭開眼。
主人公は大きく見える自分の妻の肉体を見て感動した。しかし、それは芸術的な視点ではないと作者は言う。作者が小さくなったら、どんなことを感じたのだろうか。
所謂、"変身物語"である。 ハエでなく虱である。 細君の体を虱になって眺める。 虱になって、その美しさに初めて気づく。 しかし、本来は逆ではないか? 富士山の美しさは遠くからこそわかる。登山者の見る景色は近くの山々であり富士山自体ではない。 妻の体を登っている虱から夫の容姿はどう写るのか?