追憶
ついおく
初出:「文芸春秋」1926(大正15)年4月~1927(昭和2)年2月分量:約32分
書き出し:一埃僕の記憶の始まりは数え年の四つの時のことである。と言ってもたいした記憶ではない。ただ広さんという大工が一人、梯子《はしご》か何かに乗ったまま玄能で天井を叩《たた》いている、天井からはぱっぱっと埃《ほこり》が出る——そんな光景を覚えているのである。これは江戸の昔から祖父や父の住んでいた古家を毀《こわ》した時のことである。僕は数え年の四つの秋、新しい家に住むようになった。したがって古家を毀したのは...