ふるさと
ふるさと
初出:「琉球新報」1909(明治42)年6月6日分量:約1分
書き出し:無言常によく見る女《ひと》なれど、心の欲を云ひいでむ、また、語るべき機会《をり》もなく、胸もどかしく、過ぎゆくか。実にも二人《ふたり》がその中は、砕けちりしく花|硝子《ガラス》——夕日の国の寂寥に、絡《から》みて沈む香《かう》の色。せめては夢にその女《ひと》と、微笑《ほゝゑみ》つくる嬉れしさを、ふかき思ひに抱きしめ、無言の恋をくちづけむかな。移香ながき黒髪《くろげ》のその中に、あやしく匂ふまなざし...