「耽溺」の感想
耽溺
たんでき

岩野泡鳴

分量:約145
書き出し:一僕は一夏を国府津《こうづ》の海岸に送ることになった。友人の紹介で、ある寺の一室を借りるつもりであったのだが、たずねて行って見ると、いろいろ取り込みのことがあって、この夏は客の世話が出来ないと言うので、またその住持《じゅうじ》の紹介を得て、素人《しろうと》の家に置いてもらうことになった。少し込み入った脚本を書きたいので、やかましい宿屋などを避けたのである。隣りが料理屋で芸者も一人かかえてあるので、...
更新日: 2021/12/31
dianne51514さんの感想

 ほとんどの登場人物が何かしら欠陥を抱えており、課題の抜本的な打開を図るでもなく、ただ場当たり的な対応を続けている。  理想や美点などはなく、ただただ人間の卑しさや浅ましさが詰まった話。  それでいて、事実ベースで書かれ、突飛な比喩のない淡々とした文体だからこそ、スムーズに読み進められる。  自然主義に触れたのは初めてだが、同派の特徴が如実に顕れている作品ではないかと感じた。