夜泣き鉄骨
よなきてっこつ
初出:「新青年」1932(昭和7)年8月号分量:約44分
書き出し:1真夜中に、第九工場の大鉄骨《だいてっこつ》が、キーッと声を立てて泣く——という噂が、チラリと、わしの耳に、入った。「そんな、莫迦《ばか》な話が、あるもんか!」わしは、検査ハンマーを振る手を停めて、カラカラと笑った。「そう笑いなさるけどナ、組長さん」その噂を持ってきた職工は、慄《おび》えた眼を、わしの方に向けて云った。「昨夜のことなんだよ、それは……。火の番の、常爺《つねじい》が、両方の耳で、たし...