蠅男
はえおとこ
初出:「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号分量:約309分
書き出し:発端問題の「蠅男《はえおとこ》」と呼ばれる不可思議なる人物は、案外その以前から、われわれとおなじ空気を吸っていたのだ。只《ただ》われわれは、よもやそういう奇怪きわまる生物が、身辺近くに棲息《せいそく》していようなどとは、夢にも知らなかったばかりだった。まことにわれわれは、へいぜい目にも耳にもさとく、裏街の抜け裏の一つ一つはいうにおよばず、溝板《どぶいた》の下に三日前から転がっている鼠《ねずみ》の死...