水中の友
すいちゅうのとも
初出:「『人間失格・櫻桃』解説」角川文庫、角川書店、1950(昭和25)年11月。「文藝 第十卷第十二號」1953(昭和28)年12月分量:約9分
書き出し:いつまでもものを言はなくなつた友人——。もつとも若かつたひとり——。たゞの一度も話をしたことのない二三行の手紙も彼に書いたことのない私——併し私の友情をしづかに享けとつてゐてくれた彼を感じる。——友人の死んだ時私は、嵐の聲を聞いた。若い世間は、手をあげて迎へるやうにはなやかにその死を讚へた——。老成した世間は、もみくしやになつた語で、澁面を表情した——。一等高さの教養を持つた人だけが——、何げない...