半七捕物帳
はんしちとりものちょう
04 湯屋の二階
04 ゆやのにかい分量:約40分
書き出し:一ある年の正月に私はまた老人をたずねた。「おめでとうございます」「おめでとうございます。当年も相変りませず……」半七老人に行儀正しく新年の寿を述べられて、書生流のわたしは少し面食らった。そのうちに御祝儀の屠蘇《とそ》が出た。多く飲まない老人と、まるで下戸《げこ》の私とは、忽ち春めいた顔になってしまって、話はだんだんはずんで来た。「いつものお話で何か春らしい種はありませんか」「そりゃあむずかしい御註...