半七捕物帳
はんしちとりものちょう
66 地蔵は踊る
66 じぞうはおどる分量:約54分
書き出し:一ある時、半七老人をたずねると、老人は私に訊いた。「あなたに伺ったら判るだろうと思うのですが、几董《きとう》という俳諧師はどんな人ですね」時は日清戦争後で、ホトトギス一派その他の新俳句勃興の時代であたから、わたしもいささかその心得はある。几董を訊かれて、わたしはすぐに答えた。彼は蕪村《ぶそん》の高弟で、三代目夜半亭を継いだ知名の俳人であると説明すると、老人はうなずいた。「そうですか。実はこのあいだ...