看取りの 手記である。 これほど 沈着 冷静に 介護を経て 大いなる方の下に 旅立つ経過を 克明に記した類書は 少いのではないか。 弟の足音で 彼の京大合格を 予知したのは 凄いと感じた。
息子である梶井基次郎を 看病し身体的にはもちろん、心の支えになっておられた様子が 飾らないことばで 綴られている。 それまでにも 肉親を何人か結核性の病気で 失っておられる。 生活難の上に 我が子を再び失うかもしれないという毎日は、どんなにか恐れと哀しみが おおきかっただろう。 それでも 感情的な表現でなく 事実を冷静に みつめておられる。 お母さんの本当の 強くしなやかな 精神を感じる。 最期が近づいたころ、基次郎さんが 身体の苦痛を訴えることをやめ、『悟ります』と 母に詫びる場面は 痛々しい。 お母さんは 76歳まで長生されたようで 晩年は幸せだったかなと想いをはせました。