「業苦」の感想
業苦
ごうく

嘉村礒多

分量:約45
書き出し:只、假初《かりそめ》の風邪だと思つてなほざりにしたのが不可《いけな》かつた。たうとう三十九度餘りも熱を出し、圭一郎《けいいちらう》は、勤め先である濱町《はまちやう》の酒新聞社を休まねばならなかつた。床に臥《ふ》せつて熱に魘《うな》される間も、主人の機嫌を損じはしまいかと、それが譫言《うはごと》にまで出る程絶えず惧《おそ》れられた。三日目の朝、呼び出しの速達が來た。熱さへ降れば直ぐに出社するからとあ...
更新日: 2017/09/04
7c19b2f78a23さんの感想

故郷に妻子、父妹を棄て、恋人と東京へ駆け落ちした圭一郎。定まらぬ心、落ち着かぬ心情が痛々しい。貧しさや呵責に苛まれながらも生活の基礎を築こうとする2人だが、未来に希望が見えぬまま物語は終わってしまう。悲壮感が作品全体に漂っていた。これが私小説の迫力かと思う。