「支倉事件」の感想
支倉事件
はせくらじけん
初出:「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

甲賀三郎

分量:約521
書き出し:呪の手紙硝子《ガラス》戸越しにホカ/\する日光を受けた縁側へ、夥《おびたゞ》しい書類をぶち撒《ま》けたように敷散らして其中で、庄司利喜太郎氏は舌打をしながらセカ/\と何か探していた。彼は物事に拘泥しない性質《たち》で、十数年の警察生活の後現在の新聞社長の椅子につくまで、いろ/\の出来事を手帳に書き留めたり、書類の整理をしたりした事は殆《ほとん》どなかった。今日急に必要が出来て或る書類を探し始めたの...
更新日: 2019/08/08
ハルチロさんの感想

本作品は、ジャンル分類を「小説、物語」としている。とある事件を元にして著された犯罪実録小説であるから、確かに「小説」である。しかし、トリックや推理を凝らした犯罪小説ではなく、登場人物こそ作中名を用い、作者なりの視点を盛り込んでいるものの、事実を忠実に再現した小説であると思う。よって、娯楽小説にはない重厚感が行間に漂っている。この題材となった事件については、凡そ35年前に、作中登場の弁護士の出身大学で、資料を拝見した経緯がある。残念ながら、当時に、本作品に触れることはなかったのだが、この度、本作品に触れ、冤罪事件を研究した当時のことを思い出した。なお、本作品中、『支倉(作中名)』を『アルセーヌ・ルパン』になぞられる部分がある。愚生としては、幼少の頃から『アルセーヌ・ルパン』のファンであることから、些か苦言を呈したい。『支倉(作中名)』は、『アルセーヌ・ルパン』に非ず、「奸智に長けた真性サイコパス」である、と。