旅行の今昔
りょこうのこんじゃく
初出:「新聲」1906(明治39)年8月号分量:約6分
書き出し:旅行に就いて何か経験上の談話をしろと仰《おっし》ゃるのですか。どう致しまして。碌に旅行という程の旅行を仕た事も無いのですもの、御談し仕度くっても是といって御談し申上げるような事も有りません。いくら経験だと申して、何処其処の山で道に迷ったとか、或は又何処其処の海岸で寄宿《のじゅく》をしたとかいうような談は、文章にでも書いて其の文章に詩的の香があったらば少しは面白いか知れませぬが、ただ御話し仕たって一...