愚人の毒
ぐじんのどく
初出:「改造」1926(大正15)年9月号分量:約40分
書き出し:1ここは××署の訊問室《じんもんしつ》である。生ぬるい風が思い出したように、街路の塵埃《ほこり》を運び込むほかには、開け放たれた窓の効能の少しもあらわれぬ真夏の午後である。いまにも、柱時計が止まりはしないかと思われる暑さをものともせず、三人の洋服を着た紳士が一つの机の片側に並んで、ときどき扇を使いながら、やがて入ってくるはずの人を待っていた。向かっていちばん左に陣取った三人のうちいちばん若いのが津...