流行暗殺節
りゅうこうあんさつぶし
初出:「中央公論 十月号」1932(昭和7)年分量:約42分
書き出し:一「足音が高いぞ。気付かれてはならん。早くかくれろっ」突然、鋭い声があがったかと思うと一緒に、バラバラと黒い影が塀《へい》ぎわに平《ひら》みついた。影は、五つだった。吸いこまれるように、黒い板塀の中へとけこんだ黒い五つの影は、そのままじっと息をころし乍《なが》ら動かなかった。チロ、チロと、虫の音《ね》がしみ渡った。京の夜は、もう秋だった。明治二年!——長らく吹きすさんでいた血なまぐさい風は、その御...