山県有朋の靴
やまがたありとものくつ
初出:「講談倶楽部 十二月号」1933(昭和8)年分量:約39分
書き出し:一「平七《へいしち》。——これよ、平七平七」「…………」「耳が遠いな。平七はどこじゃ。平《へい》はおらんか!」「へえへえ。平はこっちにおりますんで、只今、お靴《くつ》を磨《みが》いておりますんで」「庭へ廻れ」「へえへえ。近ごろまた東京に、めっきり美人がふえましたそうで、弱ったことになりましたな」「またそういうことを言う。貴様、少うし腰も低くなって、気位《きぐらい》もだんだんと折れて来たと思ったらじ...