足迹
あしあと
初出:「読売新聞」1910(明治43)年7月30日〜11月18日分量:約334分
書き出し:一お庄《しょう》の一家が東京へ移住したとき、お庄はやっと十一か二であった。まさかの時の用意に、山畑は少しばかり残して、後は家屋敷も田もすっかり売り払った。煤《すす》けた塗り箪笥《だんす》や長火鉢《ながひばち》や膳椀《ぜんわん》のようなものまで金に替えて、それをそっくり父親が縫立ての胴巻きにしまい込んだ。「どうせこんな田舎柄《いなかがら》は東京にゃ流行《はや》らないで、こんらも古着屋へ売っちまおう。...