一塊の土
ひとくれのつち
初出:「新潮」1924(大正13)年1月分量:約25分
書き出し:お住《すみ》の倅《せがれ》に死別れたのは茶摘みのはじまる時候だつた。倅の仁太郎《にたらう》は足かけ八年、腰ぬけ同様に床に就いてゐた。かう云ふ倅の死んだことは「後生《ごしやう》よし」と云はれるお住にも、悲しいとばかりは限らなかつた。お住は仁太郎の棺の前へ一本線香を手向《たむ》けた時には、兎《と》に角《かく》朝比奈の切通しか何かをやつと通り抜けたやうな気がしてゐた。仁太郎の葬式をすました後、まづ問題に...