稲生播磨守
いのうはりまのかみ
初出:「講談倶楽部」講談社、1935(昭和10)年1月号分量:約37分
書き出し:天保のすえ、小石川御箪笥町《こいしかわおたんすまち》の稲生播磨守《いのうはりまのかみ》の上屋敷。諸士の出入りする通用門につづく築地塀《ついじべい》の陰。夕方。杉、八《や》つ手《で》などの植込みの根方に、中小姓|税所郁之進《さいしょいくのしん》と、同じく中小姓池田、森の三人が、しゃがんで話しこんでいる。池田は昂奮し、税所郁之進は蒼白《まっさお》な顔で、腕を組み、うなだれている。池田君主は舟、臣は水。...