清貧の書
せいひんのしょ
初出:「改造」1931(昭和6)年11月分量:約51分
書き出し:一私はもう長い間、一人で住みたいと云《い》う事を願って暮《くら》した。古里も、古里の家族|達《たち》の事も忘れ果てて今なお私の戸籍《こせき》の上は、真白いままで遠い肉親の記憶《きおく》の中から薄《うす》れかけようとしている。ただひとり母だけは、跌《つま》ずき勝ちな私に度々手紙をくれて叱《しか》って云う事は、——おまえは、おかあさんでも、おとこうんがわるうて、くろうしていると、ふてくされてみえるが、...