若水の話
わかみずのはなし
初出:「古代研究 第一部 民俗学篇第一」1929(昭和4)年4月10日分量:約44分
書き出し:一ほうっとする程長い白浜の先は、また目も届かぬ海が揺れてゐる。其波の青色の末が、自《オノ》づと伸《ノ》し上る様になつて、頭の上まで拡がつて来てゐる空だ。其が又、ふり顧《カヘ》ると、地平をくぎる山の外線の、立ち塞つてゐる処まで続いてゐる。四顧俯仰して目に入るものは、此だけである。日が照る程風の吹くほど、寂しい天地であつた。さうした無聊な目を※《ミハ》らせる物は、忘れた時分にひよつくりと、波と空との間...