うづしほ
うずしお
初出:「文藝倶楽部 一六ノ一一」1910(明治43)年8月1日分量:約52分
書き出し:二人で丁度一番高い岩山の巓《いたゞき》まで登つた。老人は数分間は余り草臥《くたび》れて物を云ふことが出来なかつた。とう/\かう云ひ出した。「まだ余り古い事ではございません。わたくしは不断倅共の中の一番若い奴を連れて、この道を通つて、平気でこの岩端《いははた》まで出たものです。だからあなたの御案内をしてまゐつたつて、こんなに草臥れる筈ではないのです。それが大約《おほよそ》三年前に妙な目に逢つたのでご...