乱歩氏を、褒めちぎらず批評を加えているところが、本当に乱歩氏を敬っているのだと思う。普通、尊敬する人の事を書くのであれば、終始称賛の意を書き記すであろう。しかし、それは本当の敬意には、なっていないのだ。 もし、一から十まで褒めてしまうとそれは、ただの自分で作った虚像に縋っているだけなのである。 虚像だけを愛していては、人の真髄にはたどり着けない。 だから、夢野さんはあえて、乱歩氏の批評を加えることで改めて称賛の意を示しているのだと思う。 それにしても、あの夢野さんに憧れられている乱歩氏が羨ましいなぁ……
批評ではなく短編小説。感情の機微を感じながら、一種の緊張感さえ感じる「乱歩論」でした。自己を卑下する著者の内心とは裏腹に、攻撃的なスタイルを垣間見せる。「乱歩」は「乱歩」「私」は「私」そのような陰鬱でありながら、溌剌とした文面に夢野久作の真実染みた姿を発見しました。