「バルタザアル」の感想
バルタザアル
バルタザアル
初出:「新思潮」1914(大正3)年2月

フランスアナトール

分量:約28
書き出し:一其頃はギリシヤ人にサラシンとよばれたバルタザアルがエチオピアを治めてゐた。バルタザアルは色こそ黒いが、目鼻立の整つた男であつた。其上又素直なたましひと大様な心とを持つた男であつた。即位の第三年行年二十二の時に王は国を出て、シバの女王バルキス聘問《へいもん》の途に上つた。追随するのは魔法師のセムボビチスと宦官《くわんぐわん》のメンケラとである。行列の中には七十五頭の駱駝がゐて、それが皆肉桂、没薬《...
更新日: 2021/09/22
ねこむらさんの感想

異国の女王との色恋に破れ、知識の獲得によってその痛手を乗り越え、神の真理に目覚め、イエスの誕生に没薬を捧げに行くバルタザアル王の話。『羅生門』を書くよりさらに前の芥川が翻訳して第三次新思潮に寄稿している。多読だった芥川が、投稿用に翻訳するために選んだのがこの作品であることに戦慄した。彼が最晩年にキリスト教に傾倒し、『続西方の人』を自死の前夜に書いたことは知られているが、デビュー前の翻訳として本作を選んだということは、作家として目覚める前からキリスト教に関心があったと言えよう。異国の神の存在が彼の人生の深い層に存在し続けたことがうかがえ、興味深い。