異国の女王との色恋に破れ、知識の獲得によってその痛手を乗り越え、神の真理に目覚め、イエスの誕生に没薬を捧げに行くバルタザアル王の話。『羅生門』を書くよりさらに前の芥川が翻訳して第三次新思潮に寄稿している。多読だった芥川が、投稿用に翻訳するために選んだのがこの作品であることに戦慄した。彼が最晩年にキリスト教に傾倒し、『続西方の人』を自死の前夜に書いたことは知られているが、デビュー前の翻訳として本作を選んだということは、作家として目覚める前からキリスト教に関心があったと言えよう。異国の神の存在が彼の人生の深い層に存在し続けたことがうかがえ、興味深い。