春昼
しゅんちゅう
初出:「新小説」1906(明治39)年11月分量:約115分
書き出し:一「お爺《じい》さん、お爺さん。」「はあ、私《わし》けえ。」と、一言《ひとこと》で直《す》ぐ応じたのも、四辺《あたり》が静かで他《た》には誰もいなかった所為《せい》であろう。そうでないと、その皺《しわ》だらけな額《ひたい》に、顱巻《はちまき》を緩《ゆる》くしたのに、ほかほかと春の日がさして、とろりと酔ったような顔色《がんしょく》で、長閑《のど》かに鍬《くわ》を使う様子が——あのまたその下の柔《やわ...