病院の夜明けの物音
びょういんのよあけのものおと
初出:「渋柿」1920(大正9)年3月分量:約8分
書き出し:朝早く目がさめるともうなかなか二度とは寝つかれない。この病院の夜はあまりに静かである。二つの時計——その一つは小形の置き時計で、右側の壁にくっつけた戸棚《とだな》の上にある、もう一つは懐中時計でベットの頭の手すりにつるしてある——この二つの時計の秒を刻む音と、足もとのほうから聞こえて来る付添看護婦の静かな寝息のほかには何もない。ただあまりに静かな時に自分の頭の中に聞こえる不思議な雑音や、枕《まくら...