ある幻想曲の序
あるげんそうきょくのじょ
初出:「明星 第四巻第二号」1923(大正12)年8月1日分量:約3分
書き出し:一何もない空虚の闇の中に、急に小さな焔が燃え上がる。墓原の草の葉末を照らす燐火のように、深い噴火口の底にひらめく硫火の舌のように、ゆらゆらと燃え上がる。焔の光に照らされて、大きな暖炉の煤《すす》けた空洞が現われる。焔は空洞の腹を嘗《な》めて頂上の暗い穴に吸い込まれる。穴の奥でひとしきりゴオと風の音がすると、焔は急に大きくなって下の石炭が活きて輝き始める。炉の前に、大きな肘掛椅子に埋もれた、一人の白...