追憶の冬夜
ついおくのとうや
初出:「短歌研究 第三巻第十二号」1934(昭和9)年12月1日分量:約12分
書き出し:子供の時分の冬の夜の記憶の中に浮上がって来る数々の物象の中に「行燈《あんどん》」がある。自分の思い出し得られる限りその当時の夜の主なる照明具は石油ランプであった。時たま特別の来客を饗応でもするときに、西洋|蝋燭《ろうそく》がばね仕掛《じかけ》で管の中からせり上がって来る当時ではハイカラな燭台を使うこともあったが、しかし就寝時の有明けにはずっと後までも行燈を使っていた。しかも古風な四角な箱形のもので...