山のことぶれ
やまのことぶれ
初出:「改造 第九巻第一号」1927(昭和2)年1月分量:約13分
書き出し:一山を訪れる人々明ければ、去年の正月である。初春の月半ばは、信濃・三河の境山のひどい寒村のあちこちに、過したことであつた。幾すぢかの谿を行きつめた山の入りから、更に、うなじを反らして見あげる様な、岨《ソバ》の鼻などに、さう言ふ村々はあつた。殊に山陽《カゲトモ》の丘根《ヲネ》の裾を占めて散らばつた、三河側の山家は寂しかつた。峠などからふり顧《カヘ》ると、必、うしろの枯れ芝山に、ひなたと陰とをくつきり...