音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」
おんがくてきえいがとしての「ラヴ・ミ・トゥナイト」
初出:「キネマ旬報」1932(昭和7)年1月分量:約9分
書き出し:この音楽的映画の序曲は「パリのめざめ」の表題楽で始まる。まず夜明けのセーヌの川岸が現われる。人通りはなくて朝霧にぬれたベンチが横たわり、遠くにノートルダームの双生塔がぼんやり見える。眠りのまださめぬ裏町へだれか一人自転車を乗り込んで来て、舗道の上になんだか棒のようなものを投げ出す。その音で長い一夜の沈黙が破られる。この音からつるはしのようなもので薪《まき》を割る男が呼び出される。軒下に眠るルンペン...