幼い頃に見た夜の銀座の輝きと、学生時代に見た銀座の賑わい、そして、壮年になってからの銀座の街、鮮明な思い出の中で語られる魅力ある店々が語られたあとで、寺田寅彦は、銀座をアルプスに例えてこう言う。 ❮自分もせいぜい長生きする覚悟で若い者に負けないように銀座アルプスの渓谷をよじ登ることにしたほうがよいかもしれない。そうして70歳にでもなったら···❯と、続けている。 この随筆が掲載されたのは、昭和8年2月の「中央公論」、寅彦55歳のときだ。 文中では、「70歳にでもなったら」と将来の希望を書いているのだが、その2年後、57歳にして他界した。 少し先のことなど誰にも分かりはしないのだ。 こういう随筆を読むと胸が締め付けられる思いがする。 まあ、せめてもの慰めは、暗黒時代を見ずに済んだというくらいか。
銀座のデパートの群れを アルプスに見立てて その頂上に 震災の 準備を喚起する 大看板を建てよう と言う随筆である 鉄道馬車が 地下鉄に変わる頃の 話であるから 今でも馴染みのある 店名も ちらほら出てくるけど 時の流れは恐ろしいもので 言われても全く 分からない ものもある。