女書きが見事。日米開戦直後の一般人が感じた日常。100年後の日本を感じさせてあげたい。
太宰らしくない。 当時は検閲があったから仕方ない。 開戦して日本は大丈夫かと問う妻にいつも嘘ばかりで当てにならない事を言う夫が「大丈夫。日本は必ず勝ちます。」と答えたり、人種が違うからといってここまで憎しみの感情を持ち争うことの不思議さを書いたり所々検閲で摘発されないよう配慮した太宰なりの戦争に対する抵抗じゃないかと思われる部分がある。 最後の部分、暗い道も信仰があれば突き進めるという夫にどこまで正気なのかと呆れる妻は当時の日本に対する太宰の痛烈な皮肉と思う。 信仰というのは少し前に出る大君つまりは天皇に対する信仰だろう。 少し前なら大変な時代だなと歴史の一部を振り返る気持ちで読めたが今は他人事ではない。 とても暗い気持ちになった。 平和が100年持たないかもしれない現状を太宰はあの世でどう思っているだろうか。
六升酒を 九等分して隣組に 配る。 戦意は 高揚して 何でもできる気がしてるけど 瓶を 九本並べて均等に注ぎ分けるのには 手こずる。
太宰の躁時期の作品。 太平洋戦争宣戦布告当日 、後世の人々の為にと 若い女性によって 書かれた日記という設定だ。聡明で、愛国心に富んだ女性は太宰の妻美和子。おのろけとも言える、ダメ夫太宰(謙遜)に対する愛情。そして 太宰自身の長女園子へ思いが母親の思いとして表されている。 この時はまだ、戦争の行方の知るよしもなかった。 後に、当時住んでいた三鷹から美和子の実家の山梨に疎開するがそこも空襲にあい、津軽で終戦を迎えることになる。
この憐れに富んでいる主人の心持ち!
一般人が開戦を喜んでいたとは、知らなかった。
戦線布告の当日の女の気持ちを太宰治自身の気持ちとしていい塩梅におろおろした描写に仕上げてる。女書きさせると太宰治の右に出る作家はいない。
百年後を見据えて書いたものを、七十数年後ほんとうに見られているとは驚かされる。 太宰の書く女、なぜ争うのかと問いながらやっつけてくださいと願う、強いひと。 すごく良かった。
夫人を語り手にして、自己を、太宰一家を、世相を冷静に分析。 この平成の世、天皇制どうこうは別にして、紀元二千何百年などという人はまず見当たらない。 さすがの太宰も、この戦争の先にあるものまでは見抜けなかったか。 ただ、これから先、この「日記」のようにこの国の重要な分岐点に居合わせたならば、それを後世に伝えるようにせねばならないとは思った。