遺書に就て
かきおきについて
初出:「新青年」1929(昭和4)年5月分量:約26分
書き出し:1その朝、洋画家葛飾龍造の画室の中で、同居人の洋画家小野潤平が死んでいた。コルク張りの床に俯伏せに倒れて、硬直した右手にピストルを握り、血の流れている右の顳※《こめかみ》には煙硝の吹いた跡がある。恰度葛飾は昨夜から不在で、それを最初に発見したのは葛飾の妻の美代子である。『昨夜十時頃小野さんは街から帰って来ました。わたくしはもう寝床に入っていましたし、小野さんも顔を出しませんでした。——銃声ですか?...