『土』に就て
『つち』について
長塚節著『土』序
ながつかたかしちょ『つち』じょ分量:約12分
書き出し:「土」が「東京朝日」に連載されたのは一昨年の事である。そうして其責任者は余であった。所が不幸にも余は「土」の完結を見ないうちに病気に罹《かか》って、新聞を手にする自由を失ったぎり、又「土」の作者を思い出す機会を有《も》たなかった。当初五六十回の予定であった「土」は、同時に意外の長篇として発達していた。途中で話の緒口《いとぐち》を忘れた余は、再びそれを取り上げて、矢鱈《やたら》な区切から改めて読み出...