「衣食足りて礼節を知る」の手本のような話。 主人公の説教が男の心に響かなかった訳でもないだろうが、飢えた男にとっては「今日を生きなければ明日はない」訳で、この結末もある意味必然と言える。
旅に病んだ男が 門付に 現れる。 十銭喜捨して ついでに 尺八吹きにでもなって 身をたてるように 偉そうに 説教を垂れる。 男が 出ていくとき 見届けていた 御手伝いによれば やっぱりそうだったのかと 思わざるを得なくなる。
『破戒』に向けた前哨戦。主人公は気候観測所の職員。珍しく観測所を訪れた客に主人公が忠言を呈する。短いがどこか重苦しい。
五月、若葉の瑞々しさなどに黄昏ていると、若者が尋ねてくる。「朝飯も食べてませんで」といった風だ。自分も昔、物乞いをしたなぁと思って若者に銭を渡し、「何か特技を見つけて仕事をしてから、朝飯を食べなさい」と言った。その後、下女に聞いたら若者は早速飯屋に行っていたという。若者からすれば「説教はいいから飯が食いたい!」と。まあ大方そうだろう、そりゃそうだわな、と笑った。という話。まあ、空腹には勝てませんからね。
物乞いに対し、説教する。 仕事しろと 仕事道具を買う為の金はあげる。 但し、飯をその金で食うな、と忠告。 自分は2つ(忠告と金)の物も与えてやった事に満足していた。人助けをしてやったのだ、と自画自賛。 ところが、その物乞いは期待を裏切って、即座に飯屋の中に消えてった。 彼に必要なのは説教ではなく「朝飯」だったというオチ。 さすが藤村だけある。短編でも面白い。
似たような話を随筆の中で読んだ記憶がある。これは藤村流の四コマ小説。