夏蚕時
なつこどき
初出:「つばさ 第二巻第四号」つばさ発行所、1931(昭和6)年4月1日分量:約69分
書き出し:一午過ぎてから梅雨雲が切れて薄い陽が照りはじめた。雨上りの泥濘道を学校帰りの子供達が群れて来た。森田部落の子供達だ。山の角を一つ廻ると、ゴトゴト鳴いてゐた蛙の声がばったり熄んだ。一人の子がいきなり裾をからげて田の中へ入った。そしてヂャブヂャブさせ乍ら蛙を追ひ廻した。「厭《や》アだな!秀さはまた着物汚してお父《とう》まに怒られるで……。」後から来た女の子達のひとりが叫んだ。「要《い》らんこと吐《こ》...