海辺の廊おくに住む女の悲哀、入江の風景、主人公の少年の心理、徳のぼくとつな所作、遠い昔の光景に思えた。
夏の草と水辺の匂いを感じられるほど美しい描写。懐かしさと切なさの入り交じる、静かな読後感。
少年の日に出会った、女に対するやるせなさ、その無力さへの哀しみ。夏の月夜の船の上で「わたしの事を忘れんでいてくださいましナ」と泣いたその人を、忘れようとも忘れることができない。
小さな港の聲「コエ」の情景が美しい。夏の夜に唄い音楽を奏でる町の人達、と町を取り囲む自然の寂寥感の対比がすてき。 月明かりの中小舟にのる女と少年、それを窓辺から見守る男。映像が目に浮かぶ。
声に出してゆったりと読みたい一作。 少年ゆえ靄のように掴みきれない、けれどそこに在る哀しみ。そのもどかしい叙情が素晴らしかった。
生き別れた弟に似た少年に涙する若い女。いっそのこと弟が亡くなっていれば未練はない。もう田舎にも日本にすら戻れなくなる身。朝鮮に行くとは、死んだも同然。その少年を本当の弟と思い今生の別れを告げる。 一方、少年の方は十七年経っても消えることのない悲哀のトラウマとしてその光景が浮かぶ。 少年の頃の体験がその後の人生に影響を与えることは少なくない。特に異性に対してはセンシィテヴゥである。女性を優しいもの、怖いもの、悲しいもの、楽しいもの・・・などどう写るかによって、その後の恋愛成就の如何に関わる。 私はどちらかと言うと、強くて怖いものという印象が女性に対してあり、恋愛に関しては消極的であった。 結婚後、その女性感が証明されたのは言うまでもない。
何だか演歌の世界だな。
心が、静まり返るような読後感。 寂寞という言葉をおもいだしました。