空中漂流一週間
くうちゅうひょうりゅういっしゅうかん
初出:「名作」1939(昭和14)年9月分量:約47分
書き出し:「火の玉」少尉「うーん、またやって来たか」と、田毎《たごと》大尉は、啣《くわ》えていた紙巻煙草をぽんと灰皿の中になげこむと、当惑《とうわく》顔で名刺の表をみつめた。前には当番兵が、渋面《じゅうめん》をつくって、起立している。ここは帝都に近い××防衛飛行隊本部の将校集会所だった。「ほう、大尉どの。誰がやって来たのでありますか」一週間ほど前に、この飛行隊へ着任したばかりの戸川中尉が、電話帳を繰る手を休...