「名工出世譚」の感想
名工出世譚
めいこうしゅっせたん

幸田露伴

分量:約9
書き出し:一時は明治四年、処は日本の中央、出船入船賑やかな大阪は高津のほとりに、釜貞と云へば土地で唯一軒の鉄瓶の仕上師として知られた家であつた。主人は京都の浄雪の門から出た昔気質の職人肌、頑固の看板と人から笑はれてゐた丁髷《ちよんまげ》を切りもやらぬ心掛が自然その技《わざ》の上にあらはれて、豪放無類の作りが名を得て、関東関西の取引の元締たる久宝寺町の井筒屋、浪花橋の釘吉《くぎよし》、松喜《まつき》、金弥など...
更新日: 2022/05/27
cdd6f53e9284さんの感想

今ではどうだか分からないが、小説ばかりではなく、講談、落語、浪曲などには、必ず「名工もの」というジャンルがあった、左甚五郎とか宗岷とかね。 それだけ、克己勉励の名工ものというのが当時の大衆に揺るぎない人気があったのだと思う。 露伴もそういう雰囲気の中で「五重塔」やこの「名工出世譚」、おなじ雪聲を扱った「鵞鳥」などを書いたのだが、安直なやっつけ仕事を拒んで、頑固一徹、伝統の技を守り切る職人の魂のようなものを謳い上げたものが多いのは、日本が大きく変わり始めた「時世」を、もちろん「反発」も含めてだが、反映しているのだと思う。 モデルになった岡崎雪聲は、全国の小学校には必ずあった、本を読みながら薪を背負って歩いているあの二宮尊徳像を作ったことで有名な人だとか。