今ではどうだか分からないが、小説ばかりではなく、講談、落語、浪曲などには、必ず「名工もの」というジャンルがあった、左甚五郎とか宗岷とかね。 それだけ、克己勉励の名工ものというのが当時の大衆に揺るぎない人気があったのだと思う。 露伴もそういう雰囲気の中で「五重塔」やこの「名工出世譚」、おなじ雪聲を扱った「鵞鳥」などを書いたのだが、安直なやっつけ仕事を拒んで、頑固一徹、伝統の技を守り切る職人の魂のようなものを謳い上げたものが多いのは、日本が大きく変わり始めた「時世」を、もちろん「反発」も含めてだが、反映しているのだと思う。 モデルになった岡崎雪聲は、全国の小学校には必ずあった、本を読みながら薪を背負って歩いているあの二宮尊徳像を作ったことで有名な人だとか。