序盤中盤の細かい…クドいほどの言い回しが、終盤のコンパクトな終い方への振りになっている。研究や勉強以外に関心を示さなかった学士が「一ツの林檎」で動揺する。解剖室周りの雪解けの風景や学生たち、真面目な小使の丁寧な描写が、学士の心情を際立たせる描き方が面白い。
私は 反射過敏症なので 読み進むにつれて 目眩がしてくる。 重厚な描写は 露文学を想わす。 室付きの小使が よく書き込まれている。 研究者の個性が 枕にしては バランス取れていないような気はする。 ホラー的な要素も見られるので その方面が 好きな人には 良いかなと感じた。
キャラクターが面白い。
大学の解剖学の授業で、美少女の遺体を解剖するという話が、学生の間にひろまり、学生の間で騒ぎになった。解剖学の授業前には専用の建物に我先に入ろうとして、専任の講師が来ないうちには、入ってはいけないと、癖のある老小使にあしらわれるくらいに この解剖の講師は、風早といって自分の研究や思索以外のものに興味、関心を持たない人間であった。ただ、最近リンゴを一日一個食べる時に喜び、幸せを感じるようになっており、そのことが同僚の間に不思議な謎として捉えられていた。また、風早自体も自分の精神の動きを訝しく感じていた。 朝の街でリンゴ売りの少女から毎日買っているリンゴで、風早自身は気付かないが、このリンゴを買う時に少女とのやり取りに喜びを感じていたのだ ただ、リンゴ売りの少女は最近姿を見せなくなっていた。 自分の心の動きを訝しく感じていた風早はこれまで通りの自身の心持ちを取り戻そうと、殊更に冷淡に周囲の物を観察しながら、解剖教室に近づいていく、そして解剖着に着替えて、教室に入って解剖する遺体にかけられている布をはがした時、風早は気分が悪くなったと学生に告げて、退室する。 遺体は数日前に腹膜炎で死んだリンゴ売りの少女のものだったからである。