寺田寅彦
そのむかし 神田 駿河台の 公園の そばに 天麩羅定食屋が あった。主人は 仏頂面をして にこりとも しないで 天麩羅を 揚げていた。常連客の 間では 御主人は 何時 笑うのだろうと ひそかに 話題に なっていた。今から 思えば あの 苦虫を かみつぶしたような 顔は 宣伝に なっていた のでは なかろうか。そうだ 店の 名前は 小春 だった。